謳われない史実

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男は筋くれたった手を伸ばした。 ヴァッサゴはその手を優しく包んだ。 真っ白な柔かなな手で。 「お前は何故…堕ちた?」 それは会った時から気になっていたことだった。 ヴァッサゴはあまりにも優しく美しく…闇を見いだせなかった。 ヴァッサゴは黙したまま目を反らした。 「私の命は…今宵で失せる…ならば、最期ぐらい教えてくれ」 男はもうぼやけてしか見えないヴァッサゴの顔を見つめて、皺がれた声で言った。 「聞けば魂すら消される定め…それでもですか?」 紡がれた沈んだ声に男はただ一度、頷いた。
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