一日目・川辺で

7/8
前へ
/26ページ
次へ
 狙撃兵は無意識に呼吸をとめたまま、スコープからそろりと顔を上げた。  ゆっくり横を向き、声の主を見る。  そしてもう一度驚き、少し息を吐いた。  狙撃兵のすぐ横に、少女が座っていた。  向こう側が透けて見えそうに錯覚するほど、色の白い少女だった。  色素の薄い大きな瞳が狙撃兵を見る。  やわらかに頬を包みこむ栗色の髪が、風にゆれる。 「……」  狙撃兵は動かない。  少女は、純白の質素なワンピースを着ていた。不思議と泥撥ねなどは見当たらない。  ワンピースから伸びる素足にも、やはり汚れひとつ付いていなかった。 「……」  狙撃兵は動かない。  困惑を隠さないまま、少女を凝視する。  膝を抱えて座り込む少女の、頼りなく丸められた背中。  その背中から一対の、ワンピースと同じ純白の、大きな翼が生えていた。 「…………」  それは天使だった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加