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狙撃兵は無意識に呼吸をとめたまま、スコープからそろりと顔を上げた。
ゆっくり横を向き、声の主を見る。
そしてもう一度驚き、少し息を吐いた。
狙撃兵のすぐ横に、少女が座っていた。
向こう側が透けて見えそうに錯覚するほど、色の白い少女だった。
色素の薄い大きな瞳が狙撃兵を見る。
やわらかに頬を包みこむ栗色の髪が、風にゆれる。
「……」
狙撃兵は動かない。
少女は、純白の質素なワンピースを着ていた。不思議と泥撥ねなどは見当たらない。
ワンピースから伸びる素足にも、やはり汚れひとつ付いていなかった。
「……」
狙撃兵は動かない。
困惑を隠さないまま、少女を凝視する。
膝を抱えて座り込む少女の、頼りなく丸められた背中。
その背中から一対の、ワンピースと同じ純白の、大きな翼が生えていた。
「…………」
それは天使だった。
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