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「なにをしているんですか?」
狙撃兵が目を見開いて呆けていると、天使が鈴を転がすような声でもう一度聞いた。
その言葉で我にかえり、逡巡したあと、狙撃兵はおずおずと答える。
「人を…、殺しています」
「そうですか」
天使はあっさりと答えた。
恐怖の色も非難の色も感じられない、ただ純粋に納得した口調だった。
天使はいちど膝を抱え直すと、先ほどまで狙撃兵が狙っていた方角を見た。
狙撃兵は少なからず天使の存在に気を取られながら、それでも何とか再びスコープを覗きなおして、
「あ」
気抜けした声をあげた。
標的の男は、とっくにそこからいなくなっていた。
その日は、他に誰にも出会わなかった。
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