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ステファノ・ロッソ中尉は、びっこを引きながら森の中を進んでいた。
彼の背後には多量の血痕が、彼を追いかけるかのように続いていた。
その血は砕けた膝から流れ、裂けたブーツを伝い、踏みしだいた草を赤く濡らす。たまに木漏れ日を受けてきらめいた。
「ああ、ごめん…」
熱に浮かされたような目で前を見ながら、ロッソ中尉は掠れた声でつぶやいた。
「ごめん。ごめんなあ、俺のせいなんだ…全部」
顔は失血のせいで土気色になり、額にびっしり脂汗をかいているのに、肩は震えている。
「ビル、ニック、アーサー、みんな…痛かったよなあ。俺の判断のせいで…ごめんな、ごめん」
部下の名前をひとりひとり呼んで、うわ言のように彼はあやまり続けた。
そうしている間にもいよいよ顔から血の気が引いている。
ついに彼は手近な木に寄りかかって歩みを止めた。
「はあ。ああ…ノリコ」
震える唇で、独り言を言い続ける。
「会いたい…帰りたい。ノリコに会いたいよ、ノリコ」
妻の名前を繰り返しながら、ロッソ中尉の目にわずかに光が戻った。
「そうだ…帰らなくちゃ。家に帰らなくちゃいけない。ノリコのところへ帰らなきゃ」
再びふらふらと歩き始める。
「そうだ。基地に戻って除隊届を出して…膝を撃たれてしまったからもう戦えないと言って…家に帰るんだ」
彼は嬉しそうに笑った。
「家に帰れる!」
次の瞬間、側頭部に強く衝撃を受けて意識を失った。
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