プロローグ

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 一秒遅れて銃声がとどく頃には、マルクス少尉は泥の上に膝をついていた。  葉擦れの音を、泣き声に似た悲鳴がかき消す。 「グラン!」 「グランが撃たれた」  隊のメンバーが色めきたった。 「くそ、待ってろ!」  フィリップ・ノヴァ少尉が、ナップザックから出しかけていたポテトチップスの缶を放り捨てて駆け出す。 「待てフィル、行くな!」  トトゥ大尉が鋭く止めると、彼は振り返って反論した。 「なぜですか!向こうの射撃の腕は大したことない。当たりませんよ、グランを助けましょう!」 「違う。あれは狙撃手の使う手だ!」  ぱん。  悲鳴と銃声がもう一度聞こえて、ふたりの口論に水をさした。  全員がそちらを見ると、マルクス少尉が膝を撃ち抜かれて悶えていた。 「痛い…痛い!ああ」  ふたつの傷を抱えてうずくまり、子供のようにぐずっている。 「くそっ…大尉、行きます!」  ノヴァ少尉は我慢できずに飛び出した。 「援護する!」  先ほど彼にポテトチップスをねだっていたダン・ベルトラム中尉が後に続いた。 「よせ、罠だぞ!」  大尉の叫びは無視された。 「グラン、大丈夫か!」 「手を出せ、担ぐから」  ふたりはマルクス少尉に駆け寄った。  くの字になった体を引き剥がし、両脇をすばやく抱える。 「よし、行けるぞ!走ろう!」  ノヴァ少尉がベルトラム中尉を促して、  直後、弾かれたように右に倒れた。 「えっ?」  ベルトラム中尉が事態を把握しそこねて立ちすくむ。  ノヴァ少尉は目を見開いたまま泥に顔を突っ込んでいて、その顔は左半分がなくなっていた。ただ赤黒い花が咲いていた。 「えっ?」  ベルトラム中尉が仲間の死に気づいたその瞬間、その額を強い衝撃が襲った。
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