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トトゥ大尉は舌打ちをした。
手塩にかけた部下たちは、一瞬にして帰らぬ人となった。
彼らは今、ただ沈黙し、清流を赤い血で汚している。
「逃げるぞ。進路を変えて基地へ戻る」
大尉は押し殺した声で隣の男に言った。
「大尉…グランは、」
話しかけられたベン・マキンリー少尉は、震える声で返した。
「見ただろ、あれが狙撃兵の戦い方だ」
トトゥ大尉は吐き捨てるようにそれに答える。
「はじめに現われる偵察兵は、殺さずに動きを止める。仲間が助けに出てきたら、容赦なく一撃で仕留める。もし仲間が警戒してなかなか出てこなかったら、」
ぱん。
大尉の話を遮って、また銃声がした。
マルクス少尉が腿を撃たれ泣き叫んだ。
「…仲間が警戒して出てこなかったら、少しずつ『おとり』をいたぶっていくんだ」
それを見ながら、彼は苦しげに続けた。
「じゃあ、グランを置いていくんですか」
マキンリー少尉は泣き出しそうな声で言った。顔が蒼白になっている。
トトゥ大尉は目を閉じて、息を細くゆっくりと吐いた。
「…俺たちがグランにできる事はひとつだけだ」
深呼吸と短い黙祷が済むと、ライフルの銃口を茂みの先に向けた。
たたたん。
これまでと種類の違う銃声がした。
マルクス少尉の体がびくびくと跳ねて、血を吹き散らかした。
今度は悲鳴も泣き声もあげなかった。
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