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不思議だとは思ったのだ。
月五千円なんて。
いくら何でも安すぎる。
しかしその理由も、目の前の建物に全て合点がいった。
屋根の瓦は数枚吹き飛んでおり、雨漏りは確実である。
古びた壁には蔦が張り巡っており、何とも不気味。
立つ柱はチョンと蹴ればバキッと真っ二つになりそうである。
大地震でも起きれば一瞬で崩れるだろう。
それどころか台風が来れば、全て吹き飛ばされてしまいそうだ。
現に、建物の所々に明らかに後から修正したと思われる素人修繕があった。
(半年。
せめて半年はここで頑張ろう。)
もともとの非は、忙しさにかまけて下見を怠った千尋自身にある。
千尋は腹を括った。
「すみませ~ん。」
今時呼び鈴もないドアを叩く。
不思議なことに、普通のアパートとは違い、どこを探してもドアが一つしかない。
しばらくすると、中から青年がひょっこり顔を出した。
おっとりとした雰囲気を醸し出している。
色素の薄い髪が風になびく。
「あの、私今日から入居することになった福原千尋です。」
青年はニコリと顔を綻ばせた。
「あぁ、こんにちは。
私はここの管理人の吉田虎次郎です。
どうぞよろしく。」
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