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「確かに私達は敵同士だった。
けれど、それは立場の問題だよ。
自分がその時、どの立場に立って、どのような役割を果たしているかで、敵か味方かが決まるんだ。
しかし、今はそのようなものは関係ない。
今は、一人の人間として向き合うことができる。
そうやって向き合った時、私は近藤さんを悪人だとは思わなかった。
…まぁ、これはその人の感性の問題だね。
もしかしたら、それでも敵だと認識する人もいるかもしれない。
でも、近藤さんも言ったように、私もそれはそれでいいと思う。
無理に考えや感情を変える必要はない。」
千尋は嘆息した。
「前向きなんですね。」
「そうかい?
でも実は私はどちらかといえば後ろ向きな性格なんだ。
心配性でね。
だから今でも、神経性胃炎が治らない。」
そう言って木戸は苦笑した。
そんな木戸の横顔をしばし見つめた後、千尋はふいに視線を下に向けた。
「何だか、凄いです。
皆さんの発する言葉は、何だかとても重く感じられて…。」
そんな人達を、こんな小さな自分が受け入れることができるのだろうか。
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