189人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、この人達は一人だけ何も知らない自分を、受け入れてくれるのだろうか。
どうしようもない不安。
こんな事を一人で悶々と考えたって、どうにもならないことは分かっている。
しかし、考えずにはいられなかった。
自分はきっと、この人達よりも未熟すぎるに違いない。
価値観も違うだろう。
自分の何気ない一言が、鋭利な刃にならないだろうか。
「千尋さん。」
ふいに頭上から柔らかな声が降ってきた。
「人は誰でも、重い言葉を発します。
自分のために、誰かのために…心からの言葉に、重くないものなどありません。」
いつの間にか辿り着いたアパートの前で、木戸は一旦立ち止まった。
「だから、千尋さんも勿論……。」
その木戸の声に被さるようにして、アパートの中から、伊藤が高杉に許しを乞う叫び声が聞こえてきた。
「……これもきっと、俊介にしてみればとても重い言葉なんだろうね。」
木戸は肩を竦めながら、おどけてみせた。
そうして中に入って行く。
そろそろ伊藤を助けてやらねばなるまい。
千尋は幾分すっきりした心持ちで、木戸の背中を追った。
まだ新しい生活は始まったばかり。
これからゆっくり考えればいい。
最初のコメントを投稿しよう!