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桜もとうの昔に散り、初夏の匂いが当たりに立ち込めて来た。
大学生活にも慣れ、気のいい友達もでき、バイトでもそこそこ稼いでいる。
休日には、稼いだお金で友達と渋谷や原宿などに買い物に行き、バッチリお洒落をして、目を付けた男子の気を引くことも忘れない。
千尋はそんな華やかな学生生活を送っていた。
……ハズだった。
千尋は非常に困惑していた。
目の前には美味しそうな朝食がある。
長方形の大きなテーブルに並べられていく朝食はしかし、手をつけられることはない。
「真作が来るまで待ってましょうね。」
千尋の隣に座った男が言った。
そう、ここにいるのは千尋一人だけではない。
男性が何人かと、女性が一人、そしてまだ小さな子供が二人いる。
「山縣さんは、どのくらい食べられます?」
薄ピンクのエプロンを着た、美しい女性がしゃもじと茶碗片手に尋ねた。
「茶碗一杯だ。」
「孝義さんは?」
「私はあまり食欲がないから、半膳でいいよ。」
栗色の髪の男が言った。
「最近また痩せられたであろう。
一膳食べられよ。」
ひょろりとした、山縣と呼ばれた男が睨む。
「食欲がないんだよ。」
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