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千尋は部屋を見渡した。
八畳ほどの部屋には、ダンボール箱が乱雑に置かれている。
千尋は埃一つない綺麗な床に寝転がった。
フローリングというには程遠い床であったが、古いからなのか、妙に木の匂いがして心地よい。
外から降り注ぐ淡い春の光がより一層柔らかく感じられた。
それさえもこのアパートの不可思議さを際立たせているような気がした。
家賃が驚くほど安いわりには妙に待遇がいい。
頼めば洗濯をしてくれるという時点でまず光熱費と水道代が浮く。
しかも風呂やトイレは共同である。
聞けば、共同のものはアパート側負担だという。
さらに毎日の昼食と週二日の夕食。
これだけの待遇で五千円では安すぎる。
明らかにアパート側の負担が大きい。
いいのだろうか…。
確かにおかしな箇所は多々ある。
様々な行事に加え、明らかに普通の家を無理矢理アパートに仕立て上げたかのような造り。
しかも手作り感が溢れすぎている。
(もしかして裏で何かあるんじゃ…。)
千尋は疑った。
でないと納得がいかない。
千尋は大きな溜め息を吐いた。
(まぁ、いいか…。)
千尋はそう思い直し、体を起こしてダンボールを開け始めた。
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