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ドアが激しく叩かれた。
千尋は荷物を片付けていた手を止め、ドアを開けるために立ち上がる。
千尋が内側から鍵を開けた瞬間、勢い良く―まさしく吹き飛ぶ勢いで―ドアが開かれた。
「うわっ…!!」
思わず後ずさった千尋に何かがぶつかってきた。
その何かは千尋を押し倒すほどの力であったが、千尋は足にありったけの力を込めて、なんとか踏みとどまった。
「な、何!?」
見ると、千尋の腰に手を回し物凄い腕力をもって抱き付いているのは、明らかに男である。
少年ではない。
男である。
「ぎどざぁぁぁああん!!」
「きゃぁぁぁぁあああ!!」
二人の叫び声が重なった。
「どうしました?」
声を聞きつけて、虎次郎がやけにのんびり駆け込んできた。
「ちょっ!!
不審者ですっ!!」
千尋が訴えると虎次郎は「おやおや。」と苦笑した。
千尋が男の肩に手を掛け、引き離そうとしても思いの外、男の力が強くびくともしない。
心底困った顔で虎次郎に助けを求めると、虎次郎は男の肩をポンポンと軽く叩いた。
「俊介、俊介。
その方は孝義ではありませんよ。」
「えっ?」
ようやく顔を上げた男は涙で濡れた顔をそのままに、慌てて千尋から離れた。
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