1章 絶望と希望

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〔本当はもっと話したい事があるんだが、時間がないから手短に言うぞ。〕 私は黙って頷き表情を引き締め、久遠の言葉を聞き逃さないように耳を澄ませる。 〔前にクロウが言ってた、聖域みたいな森の泉に来てくれ。そこにいる精霊が、道を示してくれるから。〕 「精霊ぃ?」 クロウの話を思い出すが精霊がいる、という話は聞いてない気がする。私が考えている少しの間に羽の光は弱まっていき、気が付くと僅かな輝きしか残っていない。 〔空、千草や儚音達を元気づけてやってくれよ。〕 「久遠、待ってぇ!!」 私は羽に向かって必死に叫んだが羽は光を失い、再び手の平に乗った。しばらく羽を見つめた後、懐にしまいゆっくりと立ち上がる。 「久遠が言ってた事、皆に知らせなきゃ!!」 私は再び走りだし、ルシカさんの家に向かう。5分後、ルシカさんの家の近くにくると、まだ明かりが点いていた。そしてふとリングの方を見てみると、誰かがリングに腰掛けている。明かりで照らされている後ろ姿は、間違いなく千草だった。 私は走るのを止め千草に声をかけようと思い近づいていくと、啜り泣くような声が聞こえてくる。あれからずっと泣いていたのだろうか。千草は体を小刻みに震わせ、両手で顔を隠しながら泣いていた。 私はあの現場を見てしまったからわかる。千草は私なんかより、ずっとずっと辛かったんだ。そして久遠の羽を見た時、久遠への想いが強くなって喋らなくなった。それから夕食を食べた後我慢できず、一人で泣いてたんだ。 私まで泣いてしまいそうになるが涙を必死に堪え、私は千草の隣に座った。
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