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「あっ、ごめんなさい」
「気を付けてよ!」
大きな黒ぶち眼鏡をかけた黒いおさげ髪の女と、これでもかと金髪を盛り上げたキャバ風の女の肩がぶつかる。あきらかにキャバ女がよそ見をしていたのが悪いのに、黒ぶち女が謝る。
自然だった。
黒ぶち女、鈴木愛子。都内の商社で経理を担当する33歳。
同じ年に入社した同期のOLのほとんどは、結婚を機に辞めてしまった。もう、先輩とか同期で残っている女性は、総合職採用のキャリア組だけ。
別に仕事に生きようと思っているわけではない。男なんか要らないと思っているわけでもない。
ただ、モテないだけ。
この歳になるまで、彼氏の一人もできたことがない。男友達? そんなものいるわけがない。
彼女はキャバ女に深々と下げた頭を上げると、銀色に輝く大きなビルへと入っていった。
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