迷い×迷い

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終業時間になり、忙しく身支度を整える愛子。化粧を直し更衣室から出ると、一人の男性社員にばったり会った。 「お疲れ様。あれ? 鈴木さん、デート?」 この男は、平井雄二。愛子とは課が違うが同期で、時々顔を合わせると挨拶するくらいの間柄だった。 「そんなんじゃないですよー」 他の男性社員とはほとんど話さない愛子だが、この男にだけは気兼ねなく話すことができた。 「最近かわいくなったよね。絶対彼氏ができたんだって、みんな言ってるよ」 その言葉には後輩たちのとは違い、一つのイヤミも感じられなかった。 「えー。そんな噂が立ってるんですか?」 愛子は男性にそんなことを言われることが、照れくさくもありうれしくもあった。 「だってそうなんだろ? 早くしないと彼に怒られるぞ」 平井は愛子の背中をポーンと叩いた。 「もう、からかわないでくださいよお」 「ははは、じゃね」 平井は、背を向け軽く手を振り立ち去った。
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