512人が本棚に入れています
本棚に追加
愛子が仕事を終え更衣室から出ると、すでに平井が来ていた。
「じゃあ、行こうか」
愛子は緊張していた。生まれて初めてのシチュエーション。「男」と二人で歩く街並みは、いつもと違って見えた。
「ここでいいかな?」
そこは、先週雑誌に取り上げられた人気のイタリアンレストランだった。
「え? でも……」
店は混んでいた。席が空くのを待っている人も何人かいる。
「大丈夫。入ろ」
平井は微笑むと、自動ドアを抜け店内へと入った。
「予約していた平井です」
「お待ちしておりました。どうぞ」
二人は窓際のテーブルに通された。
「いつの間に予約なんかしたの?」
平井は愛子の問いには答えずにこりと笑った。
「ご注文はお決まりですか?」
平井は慣れた様子でメニューをめくる。
「じゃあ、パスタのコースで。鈴木さんは?」
愛子は文字だけのメニューに一通り目を通したが、料理の名前が難しく値段も高かったので少し戸惑った。
「えっと、同じのでいいです」
「かしこまりました。お飲み物はいかがいたしましょう」
「じゃあ、ワインを。鈴木さんも飲める?」
「ええ」
オーダーを済ませると平井は愛子の顔をじっと見つめた。
愛子はまだ緊張が解けずに視線を落としていた。
最初のコメントを投稿しよう!