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二人は食事をしながら、他愛もない会話を交わした。
平井は悠里のことは訊かなかった。
愛子も敢えて話さなかった。
「これ、美味しい」
愛子は目の前のパスタを頬張る。なんの味かははっきりとはわからないが、食べたことがない味だった。
「そうだね」
平井はワインを一口飲んだ。そしてゆっくり食事を楽しむ。
平井は急に真剣な表情を見せた。
「なあ、俺ってどうかな?」
愛子の食事をする手が止まった。
「え? どうって?」
「俺さあ、鈴木さんのこと好きかもしれない」
「え? あ……あの」
愛子の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。男性にそんなことを言われるなんて思ってもなかった。
「まあ、返事は今すぐじゃなくてもいいんだ」
「はい」
もう平井の目を見ることもできていなかった。
しばらく、無言の時間が二人の間を支配する。
「そろそろ出ようか」
平井は席を立ったが、食事はだいぶ残っていた。
愛子はそれを何かを思い出すように見つめていた。
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