その奥に潜むもの

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「最近、仕事はどんな?」 平井は当たり障りのない質問をする。 「どうってことはないですよ。いつもと同じ」 愛子の曇った顔に変化はない。目線も、カップの中で回るスプーンを見つめたまま。 「これからどうする?」 問いかけた平井の顔を、突然見つめた愛子は答えた。 「動物園行きたいな」 「動物園? 二人でか?」 愛子は視線を落とす。 「嫌ならいいよ」 平井は慌てて言い直す。 「いや、行く行く。いつぶりかなあ。キリンとか見たいなあ」 はしゃいでみせる平井。 愛子は少し微笑んだが、明らかに二人の気持ちには差があった。 「じゃあ、行こうか」 平井に促され、席を立つ愛子。 二人揃って店を出たが、鞄一つ分くらいか、微妙な距離を保って歩いた。
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