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「私は……」
言いかけた愛子を、平井は制止する。
「ごめん、ちょっと待って」
平井は軽く咳払いをして呼吸を整えると、愛子に向かって体が正面に来るように座り直した。
そんな平井の姿勢に少し戸惑っていたが、愛子は平井の顔を見つめ、話し出した。
「私……平井さんとはお付き合いできません。本当にごめんなさい」
肩をすぼめ頭を下げる。
「そっか。残念だな。前の彼のこと?」
平井は少しだけ肩を落としながら訊いた。
「はい。こんな気持ちのままじゃ誰とも付き合えない。平井さんにも失礼だし」
愛子が淡々と答えるのを、平井は納得した表情で聞いていた。
「そんなに好きなのか」
「うん」
愛子は自信を持って答えた。今なら悠里にちゃんと好きって言える。その表情は今までの愛子にはないものだった。
それから二人は、もうお互いの気持ちを気にすることなく友達としてデートの続きを楽しんだ。
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