Triste

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 俺はいま異国のアパートメントにいる。外は雨が降っている。水をタイヤに絡ませて通り過ぎる車の音、溜まった雨がゴミ捨て場に落ちる音、偶に聞こえるてくるそれ以外は非常に静かな夜だ。訳あって深夜に起きていたり、休みの日に雨が降ったりすると思い出す。    彼女はすごくナイーブで、ちょっとしたことでよく落ち込んだ。  それを元気づけるのが生きがいだった。    彼女は綺麗なものが好きだった。見た目だけじゃない。物事の本質の美しさを見ていた。    喧嘩をすると、よくカフェに仲直りに誘った。  コーヒーを飲む事よりも、俺が仲直りをしたがってるという気持ちを感じて彼女の機嫌は少しずつだが良くなった。  どうしようも無く落ち込んでいる時は、夜中港に誘った。 海面に面して建っている大きな工場が稼働する灯りは、SF映画の未来都市のようで凄く綺麗だった。きっと本当に桃源郷や、シャングリラがあるのならあんな感じなんだろう。  漆黒の海面に反射した灯りは、波に揺れてその美しさを何倍にも膨れ上がらせていた。  運が良いと外国の大きな船が停泊していた。読めない不思議な字が書いてあり、下から見上げると凄い迫力だった。この船はどこに行くのだろう、二人で隠れてのり込もうか?なんて二人で語ったものだ。    今、俺には機嫌を取る相手もいない。ある映画の台詞だが「愛を持っている。溜まって膨れるばかりで破裂しそうだ。苦しくて仕方がない。捌け口が欲しい。」まさに同じ状況だ。  その映画の登場人物はゲイだった。彼に比べればノーマルな自分の可能性は低くはないだろう。  溢れ出て注ぎ込める程の愛がある。  受け止めれる程の大きな器は何処にもない。  彼女はもう居ないんだ。なぜか今夜は彼女を思い出して泣いてしまった。    なんの為の、誰の為の涙かは分からない。  今夜、俺は悲しいのだとだけはっきりと分かった。
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