第5話

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「……」 思わず黙り込んだら、紀章さんは優しくて暖かい手であたしの頭を撫でた。 「昨日と違って、お店に来た時からずっと元気なかったんで……何かあったのかなと思って」 紀章さんはあたしの事気に掛けてくれてたんだ……。 だから、あのとき――。 「もしかして、また店長に何かされたんですか!?それなら」 「違うんです……」 智宏とあたしの事をずっと気にしてる紀章さんは、なんだか敏感になってるのかもしれない。 でも、今回はあたしが圧倒的に悪い。 「約束……破っちゃったんです」 事態が飲み込めないからか、あたしの言葉を復唱すると、紀章さんは首をかしげた。 「あたし、"未成年だから、お店には来ちゃダメ"って言われてたんです。しかも、それ、今日の話なんです……」 「……そうだったんですか」 紀章さんはそういって少しだけ黙ったけど、すぐに笑って見せた。 「でも、店長、今日はやけに機嫌がいいんですよ?」 「……え?」 「店長はあきさんと出会ってから、毎日楽しそうですよ? 本当は昼間のバイトだけじゃなくて、もっと一緒にいたいと思ってるんですよ。 今日だって、準備中はあきさんの話ばっか」 少し呆れたみたいに笑って、紀章さんはあたしの頭をまた優しく撫でた。 「それに……、 店長はあきさんには滅法弱いですから、 自分が悪いと思った時には、 あきさんから謝ってしまえばいいんですよっ!」 あ~もう。 自分が悪いんだから泣いたらだめなのに、紀章さんが優しすぎるから、目頭が熱くなってきちゃったよ……。 「……俺、服洗ってきますから、とりあえず着替えましょうか」 あたしの様子を悟ってか、紀章さんはそう言って、あたしを更衣室に案内した。 更衣室に着くまでの間、あたしはどうにか涙をぐっと堪えていた。 ここで泣いたりしたら、また紀章さんに心配かけてしまうから……。
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