51016人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
「……」
思わず黙り込んだら、紀章さんは優しくて暖かい手であたしの頭を撫でた。
「昨日と違って、お店に来た時からずっと元気なかったんで……何かあったのかなと思って」
紀章さんはあたしの事気に掛けてくれてたんだ……。
だから、あのとき――。
「もしかして、また店長に何かされたんですか!?それなら」
「違うんです……」
智宏とあたしの事をずっと気にしてる紀章さんは、なんだか敏感になってるのかもしれない。
でも、今回はあたしが圧倒的に悪い。
「約束……破っちゃったんです」
事態が飲み込めないからか、あたしの言葉を復唱すると、紀章さんは首をかしげた。
「あたし、"未成年だから、お店には来ちゃダメ"って言われてたんです。しかも、それ、今日の話なんです……」
「……そうだったんですか」
紀章さんはそういって少しだけ黙ったけど、すぐに笑って見せた。
「でも、店長、今日はやけに機嫌がいいんですよ?」
「……え?」
「店長はあきさんと出会ってから、毎日楽しそうですよ?
本当は昼間のバイトだけじゃなくて、もっと一緒にいたいと思ってるんですよ。
今日だって、準備中はあきさんの話ばっか」
少し呆れたみたいに笑って、紀章さんはあたしの頭をまた優しく撫でた。
「それに……、
店長はあきさんには滅法弱いですから、
自分が悪いと思った時には、
あきさんから謝ってしまえばいいんですよっ!」
あ~もう。
自分が悪いんだから泣いたらだめなのに、紀章さんが優しすぎるから、目頭が熱くなってきちゃったよ……。
「……俺、服洗ってきますから、とりあえず着替えましょうか」
あたしの様子を悟ってか、紀章さんはそう言って、あたしを更衣室に案内した。
更衣室に着くまでの間、あたしはどうにか涙をぐっと堪えていた。
ここで泣いたりしたら、また紀章さんに心配かけてしまうから……。
最初のコメントを投稿しよう!