第5話

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「うわぁ……、下着までベタベタしてる……」 更衣室に案内すると、紀章さんはすぐに立ち去ってしまった。 しんと静まり返る更衣室――…。 あたしの虚しい実況だけが響き、情けなさを助長する……。 結局、あたしはいろんな人に迷惑を掛けている。 お店は汚すし、 服は洗濯させるはめになるし、 「……ろくな事しないなぁ、あたしって……」 口にしたら、情けなさ過ぎて涙も引っ込んだ。 やけに肌触りのいいシャツに袖を通すと、あたしはゆっくり更衣室のドアノブに手を掛けた。 その瞬間――! ドアノブがひとりでに動き始めて、あたしは思わず手を引いた。 何のためらいもなく開いたドアの前で凝固していると、目の前に現われたのは…………、 「と…、智…宏……」 少し呆れたような、怒っているような表情の智宏が、更衣室に入ってきて、後ろ手にドアを静かに閉めた……。
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