第5話

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静まり返った更衣室。 口を閉ざした男女2人。 あたしは智宏を目の前に、時間が止まったみたいに固まっていた。 動かない体とは裏腹に、心臓は早鐘を打つ。 "体からその音が漏れているんじゃないか……" って、無駄な心配をしてしまうくらい、あたしの内で大騒ぎしていた。 「…………」 気まず過ぎて声が出ない。 智宏はそんなあたしを無言のまま見つめながら、腕を組んで立っているだけ。 (謝らなきゃ……) そう思うのに、喉が詰まって言葉が出てこない。 このままはイヤなのに……。 ちゃんと、素直に謝りたいのに……。 言うこときかない自分の体と、 いさぎ悪い自分。 その2つが相まってヤキモキした気持ちが生まれて、あたしは唇を噛み締めた。 「あき……」 そうしている内に、沈黙を破った低い声に、あたしはビクッと肩を竦ませた。
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