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双子がいなくなったあと、ボクは嫌な気配でいっぱいの暗闇の中でひとりぼっちだった。
たまらず、声を出す。
「だれかいないの?」
声を飲み込み、まったく返事のない闇。
「だれかー…」
声が、止まった。
足音が聞こえる。
コツ。
…コツ、コツ。
来るっ!!
「誰かいらっしゃるのですか?」
あの声。間違いない。
カリストだ。
青ざめるボク。
「あぁ。貴方でしたか。」
そう言い、にっこり微笑む。
でも、目は笑っていない。
「貴方は、我がサーカス団の秘密をほんの少しばかり、見てしまったようです。
ですから……そうですね。…貴方を我がサーカスに引き入れることに致します。」
え?
と聞き返すボクを気にせず、カリストはボクの手を掴む。
振りほどくことが出来ないほどがっちり掴まれ、逃げられなくなった。
「そうそう、貴方の名前は?」
恐怖で心臓がばくばくする。
うまく呼吸も出来ない。
「さぁ」
カリストが詰め寄る。
渇いた唇でボクは名前を言った。
「カ、イン……カイン・アドルフ…」
「ふむ…。大層な名前ですね。では、こうしましょう。」
掴んだ手を離され、ゆっくり発音される。
「貴方は、これから『カイナ』です。少し女性らしい名前ですが、華奢な貴方にぴったりでしょう?」
カイナ。
頭にすっと、ためらいなく入っていった。
もう一度、カリストに顔を合わせると、ボクはガクンと足が崩れたように倒れた。
最後に見たカリストは、ほんのり残虐な笑みをたたえて、ボクを見下ろしていた。
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