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まだ、湿っている。
安物のTシャツ。
あの人はいったいなんだったのだろう?
まぶたの裏に焼き付いて、離れない。
右側だけ長い銀髪。
黒いシルクハット、黒い燕尾服に紅いネクタイ。
右目は瞑り、ピエロのような派手なメイクをしていた。
けれど、紳士的な口調で半ば、恐ろしさまで思わせた。
ここまで色濃く思い出せるほど、ボクにとって衝撃的だった。
テントの中の観客は満席。
いきなり、テントの中の光が消えた。
一ヶ所…テントの真ん中にスポットライトが当たる。
そこには人間が一人。
さっきのあの人だった。
「長らくお待たせ致しました。
お集まりの紳士、淑女の皆様。
今日はこの『人間サーカス』にお越し頂き、誠にありがとうございます。
私は団長のカリストと申します。
さて、これから開演となります。様々なキャストの演技を心行くまでお楽しみ下さいませ。」
深々とお辞儀をし、カリストはスポットライトが照らす場所から堂々と姿を消した。
と、同時に騒がしい程のBGMが流れだした。
それから、
火吹き男のパフォーマンス
ナイフ投げ
蛇使い
空中ブランコ
…
最後に、歌姫の歌によって終わった。
まるで一瞬のことのように全ての演目を見た。
確かに大金をはたいただけはある。
ちょっと怖い思いはしたが、まぁどうってことはなかった。
そのとき、ボクはここのサーカスを甘く見すぎていた。
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