過去

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祖母が自分と目を合わそうとしない。 父には、あんなに優しい目で、笑顔で、口調で話すのに。 理由なんて考えたって無駄だった。 旭がなにをしたわけでもない。 だから、なにをしても許されるわけじゃない。 旭にできるのは、ただ「なにもしないこと」。 余計なことはしない、言わない。 悲しくても泣かない。楽しくても笑わない。 少しでも祖母に煩わしいと思わせないために。 自然と、感情を殺すのが癖になった。 それでも祖母の愛は旭に微塵も注がれることはなかった。 罵倒されるでもない、手を出されるでもない。 ただただ無関心だった。 旭が成長するにつれ父の忙しさも増し、一緒にいられることも少なくなった。 学校に行っても、その鮮やかな瞳の色は同級生にとって異質で奇妙なもので、直接的にいじめられることもなかったけれど、特別なかよくするような子もいなかった。 唯一の支えである父も、旭が眠る前に帰るとも限らない。 学校でも家でも、一言も話さない日も少なくはなかった。 家では祖母の顔色を伺い、学校では俯いてただ時間がすぎるのを待つ。 旭の幼い心には、自分でも気づかないうちに重いストレスがかかっていた。 そのことに気がついたのは、奇しくも父でも、もちろん祖母でも祖父でもない、父の友人だった。
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