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霧がたちこめる街路灯が、心許なく辺りを照らしている。
早朝のためか人気は皆無。物騒な裏通りを散歩する者など、よっぽどの物好きだ。
そこに二つの人影が現れる。
背丈を見る限り、まだ少年と呼ばれる年齢だろう。
街路灯の下を駆け抜ける彼らの容姿は瓜二つだった。橙に近い赤毛に、サファイア色の瞳。
違うといえば、背丈と前髪をそれぞれ右と左に分けているかぐらいだ。
少年達は怯えた表情で、何かから逃げている。
「テイル!もっと速く走れ!!」
「わかってるよ、ケヴィン兄!」
霧の中から黒服に身を包んだ集団が現れる。
彼らは無表情で二人を追いかけてきた。
どんなに速かろうと、子供の脚の速さなどたかが知れている。その差はどんどん縮まっていく。
「クソっ!!」
「ケヴィン兄!マズいよ!?捕まっちゃう」
「頑張れ!」
二人が橋を渡ろうとした時だった。
前方に黒い影。
両側から挟み撃ちされたのだ。
「………持っているものを渡しなさい。そうすれば命までは取らない」
リーダー格の黒服の男が二人に歩み寄る。
「絶対嘘だね。アイツはそうやって母さんを殺したんだ!」
ケヴィンは弟を庇うように後ずさる。
「そうか……、ならば……死ね!」
男は背に背負っていた大剣を抜き出し、ケヴィンに一刀。
右肩から左腹部にかけて大剣が食い込み、血飛沫が飛び散る。
ケヴィンは弟の目の前で絶命していた。
「ケヴィン………兄………?!」
兄の血飛沫を浴びたテイルは一瞬、何が起きたか判断できなかった。
しかし、息をせず目を見開いた兄の死体を直視し、やっと己の目の前の出来事を理解した。
「……さあ、兄のようになりたくないなら。渡せ」
「………嫌だ!!」
テイルは橋の下を流れる川に身を投げた。
犬死にするくらいなら少しの可能性に賭けたのだ。
川の流れは早く、テイルを飲み込みすぐに姿が見えなくなった。
「よろしいのですか?」
部下の一人が話しかける。
「構わない、この流れに子供が耐えれるわけがない」
大剣を鞘にしまいながら男は言う。
「この死体は回収しておけ。後始末も分からないように入念にしろ。足がついては困るからな」
亡骸を見ることもなく男はその場を立ち去った。
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