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「たまにはいいだろ?こういうのも」
安心した顔で眼を閉じられると、嬉しいけれども触れたくなるのは性分で。そっと気づかれないように、左手で右肩にある頭を撫でようと動かす。あともう少しでそのサラサラの黒髪に触れるというところで、彼の隻眼が開かれる。
「今日は何の日か知ってるか?」
「へ、え?」
己の下心がばれたのではないかと、慌てて引っ込めた左手が薄っすらと汗ばむ。
「今日でござるか?今日は……」
彼の誕生日でもなければ、勿論己のものでもない。何か特別な日だったかと頭を働かすがさっぱり思い浮かばない。きっと聞いても教えてくれないだろう彼に質問する前に、先程見た月を思い出して空を見上げる。よく見ると月以外にも小さな星たちが輝いていた。
「あ、」
「わかったか?」
彼の声は楽しそうに弾んでいた。
「七夕、でござるか?」
「Yes。VegaとAltairが輝いてるだろ?」
「べが?あるたいる…?でござるか??」
彼が話す異国の言葉は、己には殆んど理解できない。だけど、彼が流暢に操る言葉を嫌いにはなれなかった。
「織姫と彦星だ。今日は1年に1回、あいつらが会える日だからな」
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