Neid

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遠くから聞こえてくるのは蹄の音と叫び声。嫌な予感がする。 「小十郎」 「はい」 部屋の外で待機しているだろう家臣の名を呼ぶと、すぐに返事がある。 「入れ」 「失礼致します」 襖をゆっくり開くと、小十郎は膝を付いたままこちらを向いた。 「政宗様!まだ起き上がってはなりませぬ!!」 横になっていた布団からゆっくり起き上がろうとする俺の姿を見ると、小十郎は立ち上がってすぐに距離を詰め、俺の背を支えた。 「っ!」 「傷が開きますぞ」 腹に出来た傷はまだ熱を持ち、動くたびに息が詰まる程の痛みが走る。思わず苦痛の表情を浮かべると、小十郎は呆れたように息を付いた。 「いいから、服持って来い」 「御意」 包帯を腹に巻いただけのこんな姿、奴には見せられない。 小十郎が用意した紺色の着流しに袖を通し、傷にヒビかないように着替えを手伝ってもらう。なんとか着られたところで、馬の鳴く声が一つ。かと思うと、夜中だというのにドタドタと廊下を駆ける足音。心なしか己を呼ぶ声が聞こえるのは幻聴ではないだろう。
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