序章 【夜空の兎】

3/6
前へ
/78ページ
次へ
そいつは真っ黒な球体から8本の足が生えた、蜘蛛のような姿だった。 球体の部分に赤い文字か何かが書かれていた気がしたけど、あまり覚えていない。 先の暗闇から、そいつはゆっくり歩いてきた。 その時、私は確かな視線を感じた。 アレに目らしきものは付いていなかったが、アレは私の存在を認識した。 私が鞄を抱えて逃げ出したのと同時に、そいつは8本の足を気色悪く動かしながら私を追う。 そして今に至る。 もうアレは何だとか、何故追われてるのだとかはどうでもいい。 とにかく、どこかへ逃げなきゃ。 日が暮れたこの時間帯に、車すら滅多に通らないこの場所で人通りは期待できない。 それに、誰かがいたとしても、助けを求めることなんてできない。 その人まで巻き込んでしまう。 警察署に逃げ込めば……ダメだ。 そこに行くまでに、一度国道まで出なくちゃいけない。 そしたらパニックになる。 学校は? いや、残業の先生がまだいたはず。 それに、校舎内を逃げ回ったら学校がめちゃくちゃになってしまう。 ここもダメだ。 じゃあどこに逃げる? 隠れる場所なんかない! 桜が淡く咲いている。 花びらは儚く散っている。 堕ちた桜を踏み締め、私は走る。 暗闇は無限に続く。 何もかも、悪い冗談だったらいいのに。 「――――そこまでだよ!」  
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加