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そいつは真っ黒な球体から8本の足が生えた、蜘蛛のような姿だった。
球体の部分に赤い文字か何かが書かれていた気がしたけど、あまり覚えていない。
先の暗闇から、そいつはゆっくり歩いてきた。
その時、私は確かな視線を感じた。
アレに目らしきものは付いていなかったが、アレは私の存在を認識した。
私が鞄を抱えて逃げ出したのと同時に、そいつは8本の足を気色悪く動かしながら私を追う。
そして今に至る。
もうアレは何だとか、何故追われてるのだとかはどうでもいい。
とにかく、どこかへ逃げなきゃ。
日が暮れたこの時間帯に、車すら滅多に通らないこの場所で人通りは期待できない。
それに、誰かがいたとしても、助けを求めることなんてできない。
その人まで巻き込んでしまう。
警察署に逃げ込めば……ダメだ。
そこに行くまでに、一度国道まで出なくちゃいけない。
そしたらパニックになる。
学校は?
いや、残業の先生がまだいたはず。
それに、校舎内を逃げ回ったら学校がめちゃくちゃになってしまう。
ここもダメだ。
じゃあどこに逃げる?
隠れる場所なんかない!
桜が淡く咲いている。
花びらは儚く散っている。
堕ちた桜を踏み締め、私は走る。
暗闇は無限に続く。
何もかも、悪い冗談だったらいいのに。
「――――そこまでだよ!」
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