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律兄貴の部屋の前に立った俺は、インターフォンを鳴らした。
ピンポーン。
静まり返った空間の中に、チャイムが鳴り響く。
しかし、反応が返ってこない。
(あれ?留守なのかな?)
そう思いながらも、俺はもう一度インターフォンを鳴らしてみた。
ピンポーン。
さっきと同じチャイムの音が鳴る。
だが、反応はない。
「マジでいないのかな?」
そう思い、俺はドアノブに手を置き、何気なく回してみた。
すると扉がガチャッと音を立てて開いたのである。
「なんだ!いるじゃん!」
俺は抵抗もなく、大声で『お邪魔しまーす!』と挨拶をして部屋の中に入った。
律兄貴が何故、実家から出ているのかは大人の事情だそうだ。
律兄貴は今、名の売れた陶芸家だ。
父さんの親友で陶芸家として有名である狭霧右京【サギリウキョウ】さんの一番弟子で、陶芸界では期待の新星と称されているらしい。
一方、和臣さんは出版社に勤めている編集者で、主に芸術関係の雑誌を担当している。
今では律兄貴の専属ライターだ。
二ヶ月前、ある芸術雑誌で和臣さんが律兄貴の記事を掲載したところ、物凄くいい評価を得たみたいで、上司から誉められたって、麻衣さんから聞いたことがある。
それぐらい、和臣さんも律兄貴も凄いのだ。
二人が同居を始めたのは大学生の頃だから、随分と長い。
そして律兄貴の住んでいる部屋に訪ねたのも、二桁を超えている。
今では律兄貴の部屋の位置や、和臣さんの部屋も、タオルが置いてある部屋も熟知している。
俺が父さんや母さん、茜と喧嘩をした時は、必ずといっていいほど、ここを逃げ場所にしている。
律兄貴は嫌がるけど、和臣さんは歓迎してくれるた。
「今日も和臣さんに甘えようっと。」
そう思いながら俺は中に入ると、躊躇いもなく律兄貴の部屋へと向かった。
とことこと歩き、律兄貴の部屋の前に立った時だった。
中から話し声みたいなのが聞こえてきたのである。
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