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新たな生活??
四月。
入学式が始まった。
あの日以来、俺は律兄貴と和臣さんに合わす顔がなく、彼らが遊びに来ても口実を作っては駅前のゲーセンや本屋で時間を潰していた。
あの日、ショックを受けながら家に戻った俺を、茜が泣きながら抱きついてきた。
そしてワンワンと泣きながら謝ったのである。
母さんから話を聞くと、こっぴどく麻衣さんから説教を受けたようだ。
そして俺は母さんから更に衝撃的な事実を知らされた。
そう、律兄貴と和臣さんの関係である。
実は二人の仲は父さんも母さんも、そして麻衣さんや右京おじさんも周知しているのだ。
茜も知っており、知らなかったのは俺だけ。
いや、話をしていたのだが、俺だけが頭の中からすっぽりと抜けていただけなのだ。
多分。
茜が俺に謝ったのは、律兄貴と和臣さんの関係を知りながらも、俺には否定的な言葉をぶつけたから、麻衣さんが怒ったのである。
『あんたが言ったことは、あんたのお兄さんを否定することなんだよ?分かっている?』
麻衣さんに怒られ、茜は相当落ち込んだらしい。
そこへ俺が帰ってきたので、茜は泣きながら謝ってきたのだ。
俺も言い過ぎた部分もあるから怒れないけど、茜なりに傷付いたし、苦しんだからこれ以上は何も言うまい。
お互いに謝ることで喧嘩は終わった。
でも、俺は知っている。
みんなでご飯を食べ、麻衣さんが帰った後のことを。
夜中に目が覚めた俺は、トイレに行こうと部屋を出た。
そして廊下を歩いていると、どこからか泣き声が聞こえてきたのである。
誰の泣き声なのか、俺は知っている。
茜だ。
茜の部屋の前に立ち止まった俺は、耳をすませた。
するとドアの向こう側から茜の泣き声が聞こえてきた。
相当ショックだったに違いない。
大好きな人に振られて、しかもそいつが男好きなんて、誰だって想像がつかない。
俺ですら、驚いたのだから。
同性愛を否定すれば、律兄貴や和臣さんのことも否定するんだと、麻衣さんから言われて茜は黙り込んでしまったらしい。
茜の怒りは、どこにぶつけたらいいんだろう。
何も悪くないのに。
どうしてこうなってしまったんだろう。
お互いに煮え切れない思いを抱きながら、俺達は高校の入学式を迎えたのである。
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