新たな生活??

1/10
前へ
/122ページ
次へ

新たな生活??

 四月。  入学式が始まった。  あの日以来、俺は律兄貴と和臣さんに合わす顔がなく、彼らが遊びに来ても口実を作っては駅前のゲーセンや本屋で時間を潰していた。  あの日、ショックを受けながら家に戻った俺を、茜が泣きながら抱きついてきた。  そしてワンワンと泣きながら謝ったのである。  母さんから話を聞くと、こっぴどく麻衣さんから説教を受けたようだ。  そして俺は母さんから更に衝撃的な事実を知らされた。  そう、律兄貴と和臣さんの関係である。  実は二人の仲は父さんも母さんも、そして麻衣さんや右京おじさんも周知しているのだ。  茜も知っており、知らなかったのは俺だけ。  いや、話をしていたのだが、俺だけが頭の中からすっぽりと抜けていただけなのだ。  多分。  茜が俺に謝ったのは、律兄貴と和臣さんの関係を知りながらも、俺には否定的な言葉をぶつけたから、麻衣さんが怒ったのである。 『あんたが言ったことは、あんたのお兄さんを否定することなんだよ?分かっている?』  麻衣さんに怒られ、茜は相当落ち込んだらしい。  そこへ俺が帰ってきたので、茜は泣きながら謝ってきたのだ。  俺も言い過ぎた部分もあるから怒れないけど、茜なりに傷付いたし、苦しんだからこれ以上は何も言うまい。  お互いに謝ることで喧嘩は終わった。  でも、俺は知っている。  みんなでご飯を食べ、麻衣さんが帰った後のことを。  夜中に目が覚めた俺は、トイレに行こうと部屋を出た。  そして廊下を歩いていると、どこからか泣き声が聞こえてきたのである。  誰の泣き声なのか、俺は知っている。  茜だ。  茜の部屋の前に立ち止まった俺は、耳をすませた。  するとドアの向こう側から茜の泣き声が聞こえてきた。  相当ショックだったに違いない。  大好きな人に振られて、しかもそいつが男好きなんて、誰だって想像がつかない。  俺ですら、驚いたのだから。  同性愛を否定すれば、律兄貴や和臣さんのことも否定するんだと、麻衣さんから言われて茜は黙り込んでしまったらしい。  茜の怒りは、どこにぶつけたらいいんだろう。  何も悪くないのに。  どうしてこうなってしまったんだろう。  お互いに煮え切れない思いを抱きながら、俺達は高校の入学式を迎えたのである。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

944人が本棚に入れています
本棚に追加