944人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の話を聞いて、母さんは『あら。』と手を口に当てながらのんきに驚いている。
俺の話を聞き終えると、麻衣さんがフウッとため息を着きながら、俺ではなく茜に言った。
「そりゃ、優に文句を言ったって意味がないでしょ。この子が一番の被害者なんだから。」
「でも!一哉はずっとあたしと付き合っていたのよ?それなのに・・・。」
「相手が悪かったと思って諦めな。世の中にはたくさん、男がいるんだからさ。」
淡々とした口調で麻衣さんが茜を説得している。
そうだ、俺だって被害者だ。
でも、茜にとってはショックだよな。
好きだった相手が実は、男の俺の方が好きだったなんて。
俺だって、茜の立場になったらショックを受けるって。
俺も黙り込んでいると、麻衣さんが俺を見て言った。
「あんたも、無駄なフェロモンを垂れ流しているんじゃない。」
「無駄なフェロモンって!!」
「ったく、兄貴も弟もどうして異性じゃなくて、同性に惹かれる要素を持っているのかしら?呆れるわ。」
今、麻衣さんはなんて言った?
思わず耳を疑ってしまった。
すると茜が思い出したような顔で俺を見ると一言。
「あたし!ホモな弟なんて要らないから!」
「ちょっと待て!!なんだ!そのホモって!」
黙っていられなかった。
いつ、俺がホモになった?
カチンときた俺は、売り言葉に買い言葉。
結果、折角収まっていた喧嘩が勃発した。
再び大喧嘩になったことで麻衣さんと母さんが慌ててしまい、俺よりも茜を落ち着かせようとした。
それも苛立った一因だったのか、その場に居たくない俺はいつの間にか、家から飛び出していたのだ。
気が付くと、足は律兄貴のマンションへと向かっている。
携帯も財布以外は何も持たず、学生服のままで俺は歩いていた。
(何で俺が・・・。)
好きで同性に告られた訳ではない。
今考えると、茜が家に連れてきた時から俺のことを見ていたのか?
想像するだけでゾッとしてしまう。
いつの間にか、鳥肌まで立った。
そんなことを考えながら、俺は事前に律兄貴に行くことも伝えず、向かっていた。
これが大きな間違いであったことなど知らず。
最初のコメントを投稿しよう!