洞穴。

2/4
前へ
/6ページ
次へ
君の故郷にも一つや二つ、語り継がれる怪談があるだろう? 真夜中に呻き声が木霊する『廃虚の病院』 女の幽霊が出没する『逢魔のトンネル』 旧校舎の片隅に眠る『開かずのトイレ』 兵隊の亡霊が現れる『闇の防空壕』 小学生の頃。 不気味で。怖くて。不可思議で。何だかわくわくして。未知との遭遇に鼓動が熱く高まったものだ。 無垢な僕らは放課後になると、うわさ話に夢中になれた。 この物語は、そんなありふれた寓話に過ぎない。 その洞穴は、老朽化した団地の裏山にひっそりと眠っていた。 洞穴と呼ぶには小さすぎる。小型犬が身を屈めて、どうにか通り抜けられる程の穴。 荒れた斜面は腰の高さまで夏草が生い茂って、その存在を誰も知らない。 緑色のカーテンをかき分けて、その深い闇の底を覗いてごらん。 足下に潜む毒蛇に咬まれないで。 飛び立つバッタに驚かないで。 じめじめと湿って、ひんやりとした風を肌に感じるだろう? ほら、耳を澄ませてごらん。 何やら微かな囁きが聞こえるだろう? 現実(リアル)の傍らに、未知なる異世界への入り口が息づいているんだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加