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ぴーひゃら。
ぴーひゃらり。
ほら、かすれた横笛の音色が聞こえてきた。
あんまり上手ではないね。
とん、とん。
ぴー、ぴー、ぴーひゃらり。
かん。
リズムを石で刻む合いの手も聞こえてきた。
何やら、わくわくするね。
暗闇に慣れた眼をこすれば、洞穴の奥で何やらうごめく塊が見える。
二つの影が音楽に合わせて揺らめいていた。
一つは小学二年生くらいの小さな子供の影。
一つは掌に収まるくらい、もっともっと小さな影。
『ちゅー。ちゅー。』
ね、鼠?!
子供と鼠が光を奪われた闇の中で演奏に興じる様はうす気味悪い。
『ぽうっ…。』
不意に音が止んで、蝋燭に仄かな紅色の火が灯された。
ゆらゆらと不規則な灯りに照らされた影の正体を目撃した君は、愕然とするだろう。
子供の額には…。
枯れ木の根の様に曲がりくねった角が一本生えていて、笑みを浮かべる唇の端には鋭く尖った牙が見える。
垢で汚れた躰には皮をなめした腰布が巻かれているだけ…。
一方の鼠は…。
尻尾や耳は鼠の姿だが、躰の隅々まで七色に光る鱗で埋め尽くされている。
瞳は紅い血の色に染まり、獰猛な本性を映す。
異形。
この洞穴は鬼と獣の住処だったんだ。
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