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それから笑華は、どこからともなく紙とペンを取り出した。
そして僕が横につめると、ベッドにのっかかりテーブルの上にその一式を勢いよく置いた。
「……?」
僕は不可解な行動に、相変わらず小さな横顔を見つめる。
不意に笑華がこちらを向いて、大きく口角を上げた。小さな口から控え目な八重歯が覗く。
「眩しい」
と、思った。どこかの臭いトレンディードラマのような口説き文句ではなくて、ただ単に彼女の笑顔は、僕の暗い暗い心に染みるような明るさだったから。
その形容詞以外の言葉は、僕の頭にはなかった。
それに、動悸がする。
夜中に覗かす、あんな悪夢のようなものでなくて、どこか心地いい、それでいて不安なような、何か。
僕にたくさんの何かをくれる彼女が、紙に字を描く様をじっと見つめた。
A4サイズの紙に、緑色の文字が走る。
笑華の字は彼女が紙面にいるかのように、元気で少し格好の崩した丸い、世間一般俗に言うギャル文字というものだった。
「……泉アンド笑華の、駅前……、ツアー?」
もはや暗号に近いそれを、僕は辛うじて読み解き、読み上げた。
すると、満足げに笑華は大きく頷いた。
「旅のしおり作るの!せっかくだし、計画して、いっぱい回ろうよ!」
やっぱり、彼女は眩しい。僕は目を細めて、同意した。
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