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「……て」遠くから、彼女の声が聞こえる気がする。
「ううん」
五十嵐は、夢うつつで自宅の寝室で薄明かりのなか、うめき声をもらした。
「……起きて、映」
懐かしい声が耳介をくすぐる。少しかすれた、温もりのある、この声は――
そう思って、五十嵐が瞼を開けると、彼女の顔の輪郭がぼんやりと目に飛び込んできた。
「ステファニー……?」
彼は上の空で呟き、これが現実ではないと知りつつも、夢のなかで過ごしていたいと思った。いや、確実に、彼は夢を見ていた。十年前からパタリと見なくなった状況を、ステファニーが幻想であるにも関わらず、彼はそれにあらがえなかった。
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