#1夢枕

6/8
前へ
/1639ページ
次へ
 携帯電話の着信音が耳をつんざき、五十嵐はかっと目を開き、ベッドの上で勢いよく起きた。 「――夢」  黒い羽毛布団のなかは蒸していて、寝間着が汗でぐっしょりとぬれている。鳴りやまない携帯電話に気づき、五十嵐は動揺をしずめるように髪をかきあげると、サイドテーブルへ手を伸ばし、黒い携帯電話をとった。 「公香くん……?」  画面に表示された名前を呟き、一つ咳ばらいをして携帯電話を耳に当てた。 「はい、五十嵐です」 「社長、大変です」すぐに公香の深刻そうな声にさえぎられた。 「どうしたんだ、こんな早くに……出社の時間じゃないだろう」 「いますぐ、テレビをつけてくださいっ」 「ええ?」 「はやく!」  電話の向こうの公香に急かされて、五十嵐は重い足取りでベッドを抜けると、そのままリビングへ向かって、四角いソファに脱力するように腰を落とした。  朝焼けに染まる部屋は、だんだんと赤く、明るくなっていく。五十嵐は寝起きの頭を一生懸命働かせ、電源をつけた。
/1639ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加