219人が本棚に入れています
本棚に追加
携帯電話の着信音が耳をつんざき、五十嵐はかっと目を開き、ベッドの上で勢いよく起きた。
「――夢」
黒い羽毛布団のなかは蒸していて、寝間着が汗でぐっしょりとぬれている。鳴りやまない携帯電話に気づき、五十嵐は動揺をしずめるように髪をかきあげると、サイドテーブルへ手を伸ばし、黒い携帯電話をとった。
「公香くん……?」
画面に表示された名前を呟き、一つ咳ばらいをして携帯電話を耳に当てた。
「はい、五十嵐です」
「社長、大変です」すぐに公香の深刻そうな声にさえぎられた。
「どうしたんだ、こんな早くに……出社の時間じゃないだろう」
「いますぐ、テレビをつけてくださいっ」
「ええ?」
「はやく!」
電話の向こうの公香に急かされて、五十嵐は重い足取りでベッドを抜けると、そのままリビングへ向かって、四角いソファに脱力するように腰を落とした。
朝焼けに染まる部屋は、だんだんと赤く、明るくなっていく。五十嵐は寝起きの頭を一生懸命働かせ、電源をつけた。
最初のコメントを投稿しよう!