#2いつもと違う、タコスの味

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「まったく……酒が弱いくせに、強いふりして飲むからだよ」  デイヴィッドは独り言のように呟き、手際よくグラスを片付ける。茶色いウールジャケットについた濃い茶の肘当てを軸に、細くて長い彼の腕がテーブルの上で器用に動き回った。 「仲良しだね」三夜子がうれしそうに言うと、デイヴィッドは「ああっまあね」と焦って言った。そして、グラスを並べながらつないだ。 「最近はよく、二人ででかけるんだ。こうやって、マリアッチを聴きながら、タコスを食べるのが定番になりつつあるけどね」  愉快げに言ったデイヴィッドの声を聞きながら、三夜子はテーブルのタコスを眺めた。  ペケーニョのタコスは、トルティーヤ生地を半分軽く折って油で揚げたハードタコで、アメリカうけするように作られている。チリソースが定番だが、三夜子はアボガドのワカモーレソースが好きだった。先ほど、ライムをしぼって、一つ食べた。しかし、さっぱりした感じがしなくて、グリルド・コーン(とうもろこしに、粉チーズをふりかけ焼いたもの)についていたライムをも使った。
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