#2いつもと違う、タコスの味

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 まさか、妊娠するなんて――そう考えたとたん、三夜子は動きを止めた。どうしてあの夜、沸き起こる欲情を自制できなかったのか。彼とのつながりを求めたのか。  それは、ひさかたぶりの抱擁と認識しただけではない。もっともっと、彼を知りたくて、つながりたくて、このまま子どもが出来てもいいと思うくらいに、三夜子は五十嵐を好きでたまらなかった。あとにはひけなかったのだ。  五十嵐が順序立てを気にする性格と知っていたが、熱い気持がそれを飛び越えてしまっていた。彼と離れたくはなかった。ただそれだけのに……三夜子は、自らのふがいなさが引き起こした結末に、ため息をついた。  デイヴィッドは、酔い潰れたセシルの話を、ただ頷きながら聞いている。  それを耳に入れながら、三夜子は窓外に舞う雪を目で追い、数時間前の出来事を思い出した。  妊娠検査薬の結果をまのあたりにし、いまと同じように窓の向こうの雪を眺めていると、床に置いた黒いフリンジバッグから携帯電話が鳴った。
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