#2いつもと違う、タコスの味

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 着信を聞いて三夜子は、そのとき、現実に引き戻されるように思考が明瞭になり、セシルとデイヴィッドとともにペケーニョで食事する用を思い出した。  この状態で、気心知れた二人に会うと、素直に全てをさらけだしてしまいそうなほど、心がうわついていた(そのせいで、このペケーニョのオーナーがダグラスということを忘れていた)。  ステファニーの遺書を思い出し、同じ状況に置かれた自らの立場からにじみ出た不安もあった。しかし、それ以上に嬉しくて、やはり無意識に腹に手をやってしまう。対極する思いに、茫然とするばかりだった。  だが、これから先を思うと、立ちはだかる壁が次々とあらわれては、行く手を阻むようで、心の奥底ではうっ積した悩みが碇(いかり)となって沈んでは、なかなか進めない感じがした。  五十嵐との人生の船出は、危険がつきもので、航海を終えるころには、幸せな笑顔になれるのか、自信が持てずにいる。
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