「スカイ」にて。

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傘を広げて踏み出した瞬間 波が足元に流れ込んできた …浸水している すねのあたりまで雨が 水域を重ね、うねり 盛り上がっていた…。 …物語のつづきだ 閉じたペイジは そのまま 遮断されるのを拒み、 僕の体中に 巣くっている…。 街のネオンが 薄暗い海原に 反射し、 水の床を 人々が歩いている…。 もうひとりの僕も 黙ったまま その光景の意味するところを 直感していた 僕らは時々、物語の陥落へ 足を踏み込むことがある 或いは物語が 単に 現実に体現したような錯覚に 襲われるだけかも知れない…。 空からは暗い雨が煌めき、 下からは 緩やかな浸水が 足元を舐めてくる… 僕らは傘を たかく掲げ、 体躯を宙へと浮かべる 。 細いネクタイは くるくる回り、 飾りのプロペラになる 。 今 現実は物語の渦中 、 そして僕らは 登場人物 もしくは 一個の配色だ。 無数の曼陀羅が 豪華絢爛に広がっているなかの、 赤と 金と 紫に囲まれた ささやかな 、そして 風のように 艶やかな 「水色」だ…。 プロペラは勢い良く回りだし、 僕らは 黒曜石の空へと 静かに舞い上がった 。  
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