956人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は何も言わず窓際に座った。
「珈琲だったね?」
「そ、ブラックで」
俺は暇になってぼーっと外を見ていた。窓は駅にむかっていたから駅前の様子が嫌でも目に入る。
「あ」
俺はあることに気がついた。今日は朝から市内をうろついていたが、ヤンキーを1人も見ていなかった。必ず数人は駅前でたむろっているのに。
「なんか気持ちわりぃな」
コトン。珈琲がテーブルに置かれた。
「今日は街がおとなしいねぇ」
「え?」
マスターが窓の外を見ながら言った。
「おとなしいってどういうこと?」
「魂の叫びが聞こえてこないんだよ」
「魂?」
「ははは。君にはわからないかな?僕は毎日ここから街を見てるからね。駅前に集まる若人の叫びが見えるんだよ」
「めんどくせぇ言い方すんなぁ。ギャングが居ねえって言いてえんだろ?」
「そういうこと。まぁ君が居るから1人は居るけどね」
「うっせ」
今度は俺はカウンターに戻って行くマスターの背中を見ていた。何回もこの店に来ているのに俺はマスターと話したのは初めてだった。いくらここに店をかまえているからといってギャングのことをここまで見ているものだろうか。俺はこのマスターに少し興味と親近感を持った。
最初のコメントを投稿しよう!