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週末のバスは混む
どうにも人間達は休日に動き回りたいようだが、静かな夜を好む僕には理解できない
そして何より理解に苦しむのが
「うぅ……臭い…」
香水という物の存在だ
人が密集した密室に人工的な刺激臭が充満し、それが幾つもの匂いに混ざり、更なる不快な臭いへと変化する
実に許しがたい
吊革に手の届かない僕は、入口付近のパイプに掴まり、そんな不快感に奥歯を噛み締めていた―――と
―さわさわ
「――っ!?」
突如お尻に違和感が生じ、全身に悪寒が駆け抜ける
こ、これは……
―ナデナデ
「――っ!!!」
違和感の正体は何者かの“手”
それが僕のお尻で円運動を始めたのだ
巷で噂の……
【ザ・ 痴漢】
世の婦女子が日常的にその恐怖に晒されているとかいないとか
その“魔の手”が今僕のお尻を弄っている
どどどどどどどうする!?
今まで経験したことの無い恐怖が僕の神経を侵す
―体は動かない
―声も出ない
僕の能は送るべき信号を何一つこの身に伝えてはくれない
その間にも“魔の手”は東西南北、自由奔放に動き回る
乗客の誰も気付かない死角に満ちた満員バス
逃げ道は、無い
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