398人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
恐怖に縛られ身動き出来ない僕を尻目に、“魔の手”はその奔放さからか行動範囲を拡げてきた
後ろから、前に
「!!!!!」
粟立つ肌が冷や汗で塗り潰されていく
『デンジャーデンジャー』
高鳴る胸の警報器が非常事態だと騒ぎ立てる
“魔の手”はスルリと太ももの付け根辺りに出現し、そして僕はその手に釘付けとなった
女性の手だ
細く、見るからにしなやかな指は男性のものではない
―さわさわさわ
「うひっ」
お尻と違い敏感な箇所を撫でられ思わず声が出る
そんな僕に“魔の手”の主は、死角を増やす為か体を密着させてきた
後頭部に感じる二つの感触と咳き込みそうな香水の匂い
―そして
「大丈夫…任せて」
耳元で悪魔がそう囁いた時
僕の心は砕け散った
ピンポンピンポンピンポン
「降ります!降ります!僕を降ろせぇー!!!」
下車を知らせるボタンを連打しながら半狂乱で喚く僕
騒然となる車内なんて知った事ではなく、人混みを掻き分け運転手へ辿り着く
「貴様!バスを停めろ!早く!」
「え!?アンタ何を言って…」
―身体に残る感触
―心に刻まれた恐怖
『痴漢は犯罪です』
最初のコメントを投稿しよう!