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「こら、離せ!大体お前、いつまで店を空けとくつもりだ!」
僕は腰にしがみつく紗英を引き離そうとする
《ミスリル》は一階がシルバーアクセサリー、二階はプラチナを扱っていて、紗英は主に一階の接客を担当している
故に父がいない今、紗英が売り場に出ていないと一階は無人になってしまうのだ
「じゃあ、お昼ご飯は一緒に食べよ?ね?奢るから!権ちゃん好きだよね?奢ってもらうの大好きだもんね?」
コイツは僕を何だと思っているんだろうか
《昼飯》を目の前にチラつかせて僕を釣ろうだなんて
「やむを得ないな」
ピンポイントだ
あ、いや、これは修学旅行前に少しでも小遣いを温存させたいだけで、別に“奢り”という言葉に弱いワケでは…
「だよね!じゃあ適当に時間潰しててね?ネムネムするならちゃんとお腹温かくして寝るんだよ?」
「赤ちゃん扱いするな!」
去り際まで気の抜けないヤツだ
紗英はパタパタと手を振ってスタッフルームから出ていき、僕は一人部屋に残された
「あと2時間か…」
寝ようか?
朝からハードな出来事が重なり疲れていない訳では無い
擦り傷や痣程度は、ヴァンパイアたる僕は小一時間もあれば消えてしまうが、消費した体力までは回復してくれない
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