紗英とランチ

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「お前が……何を?」 母の口が開くより先に、眉を寄せた僕の言葉が洩れた だって意味不明 「えっ?いや…ほら 皆様がお出掛けなさるのに、私はお留守番なのかなー……と」 勇気を出して言ったのだろう清美の声は、蚊の啼く程に小さなものだった そんな哀愁漂わせる清美に、母はただ一言を告げる 「ジジイの介護でもしてろ」 せめて『面倒をみろ』と言え 爺ちゃんは呆けてもなければ病気でも無い 気になる所と言えば地肌の見え始めた頭頂部くらいだ 「そ、そうですよね… 私なんかはエロジジイに視姦されて留守番するのが身の丈に合った暮らしなんですよね…」 清美はそう言って唇をキツく噛み締めるが、『エロジジイ』という単語がサラッと出てくるお前の“身の丈”ってどんなんだ? 「そう思うならそんな恨めしそうな目をするな」 言葉とは裏腹に清美の目は 『置いてけぼりですか』と訴えかけてきている そんな清美に、いつもの母ならば無視をするか罵声を浴びせる所だが、今日に限っては違っていた 「まぁ、不憫と言えなくもない……か」 顎に手を当てがい清美を見る 頼むからこれ以上問題事を増やさないで欲しい そんな僕の願いが―― 「よし、どうにかしてやろう」 ――神様にハエ叩きされた
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