出発前日

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キィ…… 年月を経た錆の奏でる軋んだ音が、二人だけの公園に響く 「権太は卒業したらどうするの?」 日傘を手に上手くブランコを漕げない僕の横を、体二つ抜き出た陽子が訊いてきた 「ん?進路か? 学年一位の僕が進学しないで何をすると言うのだ」 嘘じゃないぞ? ヴァンパイアが知的でないと様にならないだろう 「ヴァンパイアのクセに社会的なヤツね、権太って」 ふん、今日びヴァンパイア一本で食っていけると… あれ?ヴァンパイアって職種だったっけ? 「そういうお前はどうなんだ?プロレスラー目指すなら…」 「目指すか!」 惜しい… アレだけのソバットを持つ女子高生が 「私はねー 看護士になりたいんだ」 陽子とは付き合いが短い訳では無い筈なのに、将来の事を初めて聞いた気がした 「そして医療ミスが発覚」 「そうそう 誤ってこめかみに注射をプス――って、するか!」 おお、ノリツッコミ 「だがお前にもなりたいモノがあったんだな」 職種はともかく、ハッキリとしたビジョンを持っていることに驚いた 「一応ね……でも」 ザザー… 足をブレーキにブランコを止める陽子 「今度は別々の道だね」 その声は寂しく 僕の胸の奥に染みた
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