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―別々の道
それは当然であり、その中で人は成長していくのだ
「だから何だ?そんな事は当たり前じゃないか」
当たり前
それすら割りきらなければいけない年齢になろうとしている
「うん、当たり前なんだよね
…でもね?だからこの修学旅行が凄く大事なの」
そう言って陽子は笑う
どことなく穏やかで
なんとなく優しく見えた
そんな笑顔だった
「僕だってそれなりに楽しみにしてるぞ」
中学の修学旅行はあまり楽しくなかったのを覚えている
転校したばかりで友達も少なく、鏡に映らない銀髪の僕は当然ながら浮いた存在だったから
修学旅行が嫌いにならなかったのは、僕の存在を面白がっていた大作と、今隣り合ってブランコに座っている陽子のおかげだろう
「私はね
何年経っても、何回話しても笑えるような修学旅行にしたいの」
それは僕だってちゃんと思い出に残るような…
―ぎゅ
「お、おい!こら…」
いつの間にかブランコから降りた陽子に正面から抱きしめられた
「楽しい修学旅行にしようね」
ボソッと呟くように
僕の耳元で陽子がそう囁いた
「あ…ま、それはだな…」
「よし!明日に備えて早寝するぞ!権太も寝坊しないようにね!」
バッと体を離し、手をブンブンと振りながら陽子が遠ざかっていく
「こら!貴様…」
「お腹冷やさないよーにねー」
僕をなんだと……
ブランコから立ち上がり、僕は陽子の姿が消えるまで見ていた
「勝手なヤツめ」
しかしまぁ…
『何年経っても――』
そういうのも、いいな
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