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「おい、野暮な質問だとは思うが…何処へ行くんだ?」
僕の質問に、晴香は雑誌を背中へと回し、視線を斜め下から斜め上へと移動させ
「…潮騒を…聴きに…」
「やっぱり来る気じゃないか」
あくまで僕と目線を合わそうとしない晴香の顔を両手で挟み、グイっと僕の方へと向ける
「何しに行くんだ?そのリュックには何が入っている?移動手段は何だ?」
晴香の目を正面から捕らえ、立て続けに問い詰める
「……秘密」
この…
無口なヤツが黙秘権を行使するとやりづらいじゃないか
しかし、コイツにはちゃんとした対処マニュアルが存在するのだ
「僕に…話せない事があるのか?」
寂しげな口調と寂しげな眼差し
「あ、……うぅ…」
晴香の伏せ目勝ちな瞳が一度大きく見開き、そして眉を八の字にして苦悩を滲ませ、その瞳は細く下がる
「……私も……」
僕の《対キョンシー》用の口撃に、晴香はとうとう
ちゅ
んん!!?
勝利を確信したその瞬間
まさかの…いや、時折食らってはいたが、でも別に嫌なワケじゃなく…
僕は何を言ってるんだ?
「…ごめん…ね?」
視界を覆う影が引き、画面一杯の晴香の顔が、口が、そう動いた
そしてその姿が文字通り、瞬く間にかき消えたのだ
一人残された道の真ん中で、少し冷えた秋風が横切る
「アイツなりに僕の対処方を考えていたんだな…」
何だかしてやられた気がした
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